海外都市伝説「グリーンマン」
「グリーンマン」というアメリカの都市伝説をご存知でしょうか?
その名の通り緑がかった肌をした恐ろしい風貌の怪人、あるいは幽霊として、ペンシルベニア州を中心に現在も多くの話が伝わっています。
過去記事:
・第一回「ブラッディ・メアリー(Bloody Mary)」
・第二回「消えるヒッチハイカー/後部座席の殺人鬼」
・第三回「バニーマン(Bunny Man)」
都市伝説になった男
「グリーンマン」は話が生まれた発端や経緯について明確になっている、都市伝説として珍しいケースです。
詳細については、父親が「グリーンマン」と会ったことのある、という体験談をご紹介します。
父は確かに「グリーンマン」に会ったことがありました。
少々長くなりますが、お付き合い頂ければ幸いです。
チャーリー・ノー・フェイス
私の父は、ペンシルベニア州ビーバーフォールズで生まれ育ちました。
この地域の人は、時期こそ違えど必ず「チャーリー・ノーフェイス」……グリーンマンの話を聞いて育ちます。
「グリーンベレーの秘密部隊に所属していた」「オリンピック選手にウエイトリフティングで勝った」などなど、よくホラを吹く父が、伝説の「グリーンマン」に会ったことがある、などと言った時、私ははじめ信じられませんでした。
私がインターネットで「グリーンマン」の画像を検索し、父に見せると、彼は言葉を探すように押し黙りました。
1919年8月、8歳の男の子レイ・ロビンソンは、廃棄された集電装置の傍にある木の上に、鳥の巣があることに気付きました。
雛がいるかもしれない――そう思ったレイ少年は、木によじ登り、高圧電流の流れる送電線に触れてしまいました。
彼が送電線に触れたのは、ちょうど1年ほど前にも12歳の少年が感電死する事故が起きた場所でした。
医師はひと目見て言いました。「生存は絶望的だろう」
高圧電流によって彼の顔は蝋燭のように溶け、鼻、唇、耳、そして両目は全て消えていました。触れた時のショックで片腕も肘から先が吹き飛ばされていました。
しかし生死の境を彷徨っておよそ一ヶ月、彼は奇跡的に快復へ向かいます。
身体の欠損を伴う大事故に遭った彼ですが、リハビリを経て、杖を使えば歩けるまでになりました。
彼は革の財布やベルトを作ったり、芝刈りの手伝いをしたりして過ごしました。
幸いなことに彼の聴力は失われなかったので、ラジオを娯楽として楽しむことができました。
また家の周りの森をハイキングするのも好きでした。
彼の静かな暮らしはしばらく続きました。しかし、ハイキングコースだった森に工事業者が入り、通行止めになったことで彼の生活が大きく変わります。
彼は、(人目や直射日光を避けるためか、)夜に国道(ルート351)を長時間散歩するようになったのです。
地元ではレイの存在自体は知られていましたが、行動エリアが自宅を中心とする範囲だったためほとんど他人に会うことはありませんでした。
しかし夜の散歩を始めたため、レイは多くの人に「目撃」されることとなります。これが「グリーンマン」の都市伝説の生まれたきっかけです。
ショッキングな彼の容姿を、しかも夜に見た人は度肝を抜かれたことでしょう。
彼の噂は瞬く間に広まり、「ペンシルベニア州の若者で知らぬものはいない」というほどになりました。
レイは地元では「チャーリー・ノー・フェイス(顔無しチャーリー)※」と呼ばれ、噂が歪んで伝わった外の地域では「グリーンマン」と呼ばれました。
※なぜ「レイ・ノー・フェイス」ではないのかはよく分かっていません。
「チャーリー・ノーフェイス」あるいは「グリーンマン」に一目会おうと、ペンシルベニア中の若者が煙草とビールを手にルート351へと集いました。
多くの友好的で気のいい若者たちは、お土産と引き換えに「伝説の人物」と写真を撮って帰りました。
しかし、どこにでも質の悪い奴らは存在します。
レイに半ば無理やり酒を飲ませたり、自宅の前で「レイに会わせろ」とクラクションを鳴らして騒ぐのはまだマシな方で、特に酷い者になると彼を車に載せ、適当なところで下ろしたまま去ってしまう奴らもいました。
そんな時、家族は一晩中レイを探して回りました。
しかしそんな酷い目に幾度も遭い、「もう、夜出歩くのはやめてほしい」と家族に懇願されても、レイは最後まで夜の散歩をやめませんでした。
……私の父と友人達も、「チャーリー・ノーフェイス」の噂を聞いて肝試し気分で車を出した一団でした。
その日は深い霧が立ち込めていました。
運転していた友人は既にレイに会ったことがあったため、レイの姿を見つけると車を停め、仲間たちを驚かせようとこっそり彼をステーションワゴンの中に乗せました。
彼の姿をいきなり間近で見た父や友人達は恐怖で絶叫しました。
しかし運転手の友人に紹介され、レイと触れ合ううちに動悸は収まってきました。
彼がビールと下品な冗談と、地元の野球チーム「ピッツバーグ・パイレーツ」を好む人だと気付いたのです。自分たちと同じじゃないか、と。
私がインターネットで「グリーンマン」の画像を検索し、父に見せると、彼は言葉を探すように押し黙りました。
やがて父は「初めて出会った時、彼を怖がってしまったことを今でも後悔している」と呟きました。
レイは質の悪い若者に絡まれたり、酷い仕打ちを受けても決して怒りを見せませんでした。
彼は正直で、誠実で、「そうありたい」と望む人全ての友人でした。
彼は決して都市伝説などではありません。彼は人間です。
名前はレイ。74歳で大往生を遂げた彼は、紛れもなく人間でした。
グリーンマン まとめ
調べているうちになんだかしんみりしてしまいました。
なお、レイ氏は写真も残っています。
ショッキングに感じる方もいるかも知れませんので、念のため画像はリンクにしておきます。
ただ、彼の生きた姿を想像するためにも、よろしければその目でぜひご覧になってほしいと個人的には思います。
>Wikipedia(英語版)の記事の画像
この記事をご覧になった方が「グリーンマン」の話をもしもどこかで見聞きしたら、「彼はレイ・ロビンソンという実在した人間だよ」とぜひ教えてあげて下さい。
今回はこの辺で。ではでは。
参考:
https://en.wikipedia.org/wiki/Raymond_Robinson_(Green_Man)
https://www.thrillist.com/travel/nation/charlie-no-face-legend-true-story
https://web.archive.org/web/20170825060124/http://www.timesonline.com/charlie-no-face-the-life-and-the-legend/article_b87c3f73-9069-5d83-9a83-e8f7a02cc5db.html
'Charlie No Face' relegated to urban legend after novel was released, film stalled - Lifestyle - The Times - Beaver, PA
https://news.google.com/newspapers?id=oX4iAAAAIBAJ&sjid=O68FAAAAIBAJ&pg=6775%2C2485221