ゴーストインザヘッド

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陳舜臣「にがい蜜」あらすじと感想

陳舜臣「にがい蜜」あらすじと感想

にがい蜜

にがい蜜

私は中国秘密結社の調査のために香港に出かけた。
中国の秘密結社といえば、青幇*チンパン*と紅幇*ホンパン*が有名である。だが、彼らのおもな縄張りは揚子江流域で、根拠地は上海なのだ。華南では三合会の勢力がつよかった。かつて孫文も三合会と結んだし、太平天国も彼らと関係をもった。起源についても諸説紛々だが、国姓爺鄭成功の父鄭芝竜を始祖とする説もある。青幇は華中の運河を航行する水夫のあいだに組織されたというが、三合会も華南の船乗りに関係があるようだ。鄭芝竜というのは、明末の貿易船であり、大海賊でもあったのだ。
三合会とは、天地会のことである。天地会のバイブルの語句のなかに『三河合水万年流』というのがあって、それから会の別名になった。「天地会」が訛って「天帝会」または「添弟会」とも呼ばれる。リーダーを老大哥と呼ぶところから「哥老会」の別名もある。要するに三合会とは、異民族である満清王朝にたいする、漢人のレジスタンス運動にほかならない。
友人から国民政府時代の北京の高官を紹介され、すばらしい青磁の花瓶を買い求めた。その折り、通訳兼ガイドに美しい中国美女が待っていた。そして彼女の尽力で三合会の入会式に秘密裏に参加できることに。じつはここに一つの細工が施されていて、ラストのドンデンがえしに読者は導かれることになる。
 
Amazon 商品説明より

 
 

陳舜臣「にがい蜜」あらすじ(ネタバレ)

ラストまでネタバレします。

本作の主人公である斎藤誠一は、体制から外れた者たち・アウトサイダーの調査をしていました。

物語の冒頭、彼の興味は、中国の秘密結社に向けられています。
斎藤は、秘密結社の内情を調査しようと試み中国へと渡ります。
 
 
早速調査に乗り出す……前に、斎藤は自身の蒐集癖を満たすため骨董品屋に立ち寄り、素晴らしい掘り出し物の陶磁器を購入します。


その後、通訳兼ガイドとして、李玲という美しい女性を紹介された斎藤。話を聞けば、彼女は秘密結社に通じているといいます。

通訳兼ガイドの役割も果たす彼女に香港の街を案内される途中、また別の骨董品屋に立ち寄る斎藤(調査しろ)。店主は、斎藤が購入した掘り出し物の陶磁器をたいそう羨ましがりました。
 
 
そして遂に、斎藤は、李玲の手引きによりメンバーに扮して秘密結社に潜入します。
 
 
内部では入信の儀式が行われていました。

息を潜めその様子を見守る斎藤でしたが、突然、部屋の明かりが消え複数の影が乱入してきます。

騒然となる室内。そして再び明かりが点くと、儀式に使われた像と、李玲の姿が消えていました。
 
 
自分の好奇心のせいで李玲が攫われたと負い目に感じた斎藤は、なんとか独力で犯人を捜し出します。

しかし武装した秘密結社の構成員を逮捕したり打ち倒す力は斎藤にはありません。犯人たちは李玲の身柄を引き渡す代わりに身代金を要求してきましたが、手持ちのお金で賄える額ではありませんでした。

仕方なく斎藤は骨董品屋の店主に例の陶磁器を売り、その金を身代金に充てます。

こうして李玲は無事、解放されました。
 
 
さて斎藤が帰国した後、談笑する人々の姿がありました。

そのなかには李玲と骨董品屋の店主の姿が。

そう、誘拐は狂言だったのです。

全ては李玲と店主が斎藤の陶磁器を奪おうと仕組んだことだったのでした。
 
 

感想等

英国統治下の香港という、立ち位置の定まらないミステリアスな都市を舞台にテンポ良く繰り広げられる展開に、終始圧倒されたまま読了を迎えてしまいました。

主人公の斎藤は結局、香港の人々の掌の上で踊らされていたのでした。

李玲、店主、結社と思われる人々、そして乗り込んできた犯人たち。彼らは皆、仲間だったのです。
 
 
さて斎藤を騙して大金を得た彼らですが、彼らは単に、陶磁器を求めて斎藤を騙した訳では無い、と私は感じました。

彼らには香港で生きる者としてのプライドが窺えるように思えるのです。

この作品が著された時点では、香港はまだ英国の統治下にありました。

他国の支配を受け、アイデンティティが揺らぐ地で、自国の優れた磁器を他国、それも日本に流失させまいとした彼らの思いが伝わってくるように思えるのです。
 
 
また、最後まで騙されていたことに気付かぬまま帰国してしまう斎藤の姿は、非常に滑稽であり、同時に、偽善に満ちた日本人へ向けられた、痛烈な皮肉が感じ取れます。
 
 
ここでこの「にがい蜜」というタイトルに注目してみましょう。「にがい」、という言葉と、甘い、「蜜」。これら背反する二つの事物が繋げられた、一見矛盾しているように思えるこのタイトルは、英国の支配と自らの自負心とに板挟みになった香港の人々を象徴しているのではないでしょうか。
 
 
香港の人々の微妙な心理を流暢な日本語で描く。

中国と日本の間に立つ陳舜臣だからこそ著せた傑作です。
 
機会があればぜひぜひご一読を。
 

にがい蜜

にがい蜜